法律相談Q&A(9) 就業規則の変更②(従業員の同意がある不利益な変更の場合)(人事・労務)

【Q】
当社は、業績の悪化のため、従業員の基本給を減額することを検討しています。従業員も理解をしてくれており、賃金を定める就業規則を変更することを考えていますが、どのような手続が必要となりますか。

【A】
従業員が、就業規則を不利益に変更することについて同意をしていれば、就業規則を変更することが可能です。そして従業員が真摯に同意したことを示すため、①従業員に対し、就業規則の変更によって従業員が負うことになる不利益の内容や程度について十分に説明したうえで、②不利益変更について十分な説明を受け、内容を理解した上で同意するという従業員の意思表示を、書類等の記録に残る形で示してもらうことが必要になります。

(理由)
1 労働契約法の定めと最高裁判例
労働契約法第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定めています。この条文の反対解釈として、使用者は、労働者と合意(又は同意)をすれば、就業規則を不利益に変更することが可能です。
もっとも、最高裁判所(最高裁平成28年2月19日判決・山梨県民信用組合事件)は、使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、「当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべき」であるとしています。
そして、同判例は、同意の有無の判断要素として、(ⅰ)当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、(ⅱ)労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、ⅲ当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点を挙げています。

2 使用者が注意すべきこと
以上のとおり、不利益変更についての合意(又は同意)の有無は、慎重に判断されるものであるため、労働者が変更後の就業規則を提示されて単に異議を述べなかっただけでは、合意があったと認められないこととなります。
したがって、会社としては、①従業員に対して、変更による不利益の内容及び程度について分かりやすい資料を示して説明会を開催するなどして十分に情報提供又は説明をすることが必要となります。
そのうえで、②従業員が変更内容を十分に理解したうえで、真摯に同意したことが明らかになるよう、書面等により記録化することが必要です。

3 「不利益」変更とは
本件は、基本給を減額するという変更なので、従業員にとって不利益であることに異論はないことと思われます。しかし、変更の内容によっては、労働者にとって「不利益」な場合とはどのようなことであるかが問題となる場合があります。
この点、「不利益」とは、形式的なものであると考えており、従業員にとって少しでも不利益になる要素があれば、不利益変更にあたるため、従業員の同意が必要になると考えられています。

以 上