法律相談Q&A(8) 解雇③ 中途採用者の成績不良を理由とする解雇(人事・労務)

【Q】
弊社は、即戦力となることを期待して、他社での実績のある社員を中途採用し、その社員には、部長職を与え、それに見合う給与を支払うことにしました。しかし、実際には、社員の能力が著しく不足しており、社内に混乱を招いてしまっています。成績不良を理由に解雇することができるのでしょうか。

【A】
新卒採用の従業員であれば、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがない場合でなければ解雇は困難ですが、他社での実績を見込んで中途採用したという本件では、新卒採用の場合と比較して、やや緩やかな要件で解雇が認められる可能性があります。

(理由)
1 雇用主は、労働者を解雇する権利を有していますが、解雇権を濫用することはできません(労働契約法16条)。
新卒者の成績不良を理由とした解雇の有効性について判断した有名な裁判例(東京地裁決定平成11年10月15日・セガ・エンタープライゼス事件)では、解雇が有効となるためには、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないことが必要であるとして、人事考課により下位10%未満の労働者に対する解雇さえ無効とされています。

2 他方、中途採用の場合は、一定の知識・経験を備えていることが期待されて採用されるのが一般的です。特に、前職で高い業務実績があり、「支店長」「部長」等の管理職として地位を特定されて採用された者(特定地位者)は、能力に着目しての採用であり、一般的な解雇よりは、解雇の有効性が緩やかに判断される傾向にあり、以下のような事例でも、解雇が有効とされています。

① 東京地裁平成12年4月26日判決・プラウドフットジャパン事件
顧客企業の役員及び管理職に対して適切な質問を行うことなどを通して自ら問題と解決への意欲を生じさせ、協同して問題の解決策を作成実行していくことを主要な業務とするインスタレーション・スペシャリストとして採用された者が、今後能力を高める機会を与えられたとしても、平均に達することを期待することは極めて困難であるとして、解雇が有効とされた事案。なお、雇用主が職種変更の提案をしたことも考慮されています。

② 東京地裁平成14年10月22日判決・ヒロセ電機事件
語学力、品質管理能力を備えた即戦力として、「主事一級」の待遇で中途採用された労働者が、入社4か月後に、上司への誹謗、業務命令違反、基本的・専門的知識・能力の欠如、職場規律違反等を理由に解雇された事案。裁判所は、「長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、被告[註:雇用主]が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、適性がない場合に受付や雑用など全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではない」としたうえで、労働者が雇用時に予定された能力を全く有さず、これを改善しようともしない場合は、解雇せざるを得ないと判断しています。

③ 東京地裁平成15年12月22日判決・日水コン事件
労働者が、システムエンジニアとして中途採用され、在籍していた8年間でさしたる成果を果たせなかったうえ(開発したプログラムについて全く機能しない事態を生じさせ、顧客のクレームや社内からの苦情を招くなどした)、上司にも反抗的態度を取った事案。裁判所は、単に、技術・能力・適格性が期待されたレベルに達していないというのではなく、著しく劣っていて職務の遂行に支障を生じており、それは簡単に矯正できない労働者の性向に起因していると判断しています。

④ 東京地裁平成26年1月30日判決・トライコー事件
労働者は、日商簿記1級、税理士事務所等における約8年半の記帳・経理業務の経験を買われ、記帳・経理業務の代行等のアウトソーシング提供を主たる業務とする雇用主に採用されたが、月次決算結果等の提出期限を度々に途過し、記載内容に誤りもあったことから、解雇された事案。この裁判例では、雇用主が退職勧奨を行った経過がある点等を考慮したうえ、「職務懈怠が明らかになる都度、注意・指導されながら、その職務遂行状況に改善がみられなかった」として解雇が有効と判断されています。

3 即戦力と期待した社員の場合、通常の社員の場合と比較して、成績不良を理由として解雇しやすい傾向はあります。とは言え、成績不良と言えるか否か、能力がないと言えるか否か等の立証は困難であり、例えば、社員の対応に問題があった際に、その都度、問題内容と指導結果を記した多数のメモを残す等の対応が必要となります。また、解雇に至るまでの間に、社内の人間関係に悪影響を及ぼす可能性もあります。そこで、中途採用と言う場合でも、肩書や履歴書の内容を妄信するのではなく、面接やテストなどを実施して、会社にとって必要な知識経験を有するか否かをしっかりと判断したうえで、採用することが重要だと考えます。

以 上