「企業と人権」に関するセミナーのご報告(10月26日開催)
10月26日に、九州CSR協会(当事務所の弁護士近藤真、松井仁、稲森幸一が会員になっています)とヒューライツ大阪の共催で、「人権研修のためのセミナー~効果ある企業内人権教育のために~」をテーマにセミナーが開催されました。セミナーは13時から17時までの長丁場でしたが、企業関係者、マスメディア関係者、弁護士、司法試験合格者等が熱心に参加されました。
まず、冒頭40分で、九州CSR協会の近藤真(弁護士)と世良洋子(弁護士)から、「人権につまずかないために」と題して、「反人権的意識」は気がつかないところで醸成されうるので「人権感覚」を鍛えることが必要であることが、同協会が作成した「人権侵害事例集」を使って説明されました。また、企業活動がグローバル化する中で、自社企業の人権侵害だけではなく、製品や原料の調達先や販売先の人権侵害にも配慮する必要があること(サプライチェーン・バリューチェーンの問題)、これを前提として、海外の大手企業と契約を締結する日本の企業は、契約書にサインするだけではなく、海外大手企業が作成した「サプライヤー行動規範」等(児童労働、強制労働、差別的取扱い等の人権侵害をしていないこと等を誓約するもの)にサインするよう求められるようになってきていることも紹介されました。更に、日本全体の人権状況を知るために、国連が中心となって作成された32の「人権条約」や、これに関連する人権条約機関による定期報告書審査のシステムがあることも簡単に紹介されました。
次に、ヒューライツ大阪の会長である白石理氏から、長年に亘る国際連合の人権担当官としての経験を元に、人権とは何かという根源的なお話、企業と人権に関する国際的動向(グローバル・コンパクト(2000年7月)・OECD多国籍企業ガイドライン(2011年5月改訂)・ISO26000(2010年11月)・ビジネスと人権に関する指導原則(2011年))の紹介とともにに、企業の人権研修はどうあるべきかという興味深いお話を伺いました。
そして、15時以降、ヒューライツ大阪の特任研究員の松岡秀紀氏により、参加者を4人1組のグループに分け、ヒューライツ大阪作成の「人を大切に―人権から考えるCSRガイドブック(改訂版)」とガイドブックの「活用の手引き」に基づき(これらの冊子は事前に参加者に配布)、いかにしたら効果ある企業内人権教育を実施できるかという観点から、ワークショップが開催されました。参加者各人は、自身の過去の人権教育に関する経験を開示することから始まり、グループ毎に、企業内研修の目的を設定して、どのような方法で効果的な研修を実施するかを議論し、発表しました。アンケートによると、このワークショップは大変好評でした。
白石氏のお話では、企業内研修担当者には、以下の4つのことが必要であるとされています。
① 人権を知る「国際基準の人権」が基礎。
② 企業が抱える人権課題、人権リスクに敏感になる。
③ 人権研修で企業が目指すものを明確にする。
④ 効果的な人権研修を考える。何をすべきかと、何ができるか。
今回のセミナーでは、九州CSR協会の講演は①と②(特に②)に関するもの、ヒューライツ大阪の講演とワークショップは①③④に関連するものです。③④が①②をある程度前提とすることから、③④もなかなか困難な課題です。
今回のセミナーでは、企業が人権に取り組む際に上記③④が重要であること、人権を理解するためには上記①の国際基準を勉強する必要があること、そして、一番難しいことではありますが、上記②の「人権感覚」を磨くことが取り上げられたことになります。「企業と人権」の問題を考える際の道筋が示されたと思います。
*セミナーの主催者について
九州CSR協会は、組織の社会的責任について研究し、その成果を社会に発信することを通じて、組織の社会的責任経営への取組を支援するグループで、学者、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士等の専門家、コンサルタント、会社経営者・会社員等から構成されており、会長は、吾郷眞一氏(立命館大学法学部特別招聘教授・九州大学名誉教授)です。
「ヒューライツ大阪」は、正式名称を「一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター」といい、①アジア・太平洋地域における人権の伸長を図る、②国際的な人権伸長・保障の過程にアジア・太平洋の視点を反映させる、③アジア・太平洋地域における日本の国際協調・貢献に人権尊重の視点を反映させる、④国際化時代にふさわしい人権意識の高揚を図る、という4つの目標の下で人権情報の受発信と人権の国際基準の普及促進のために活動している団体です。企業と人権の分野でも多くの成果があり、「人を大切に―人権から考えるCSRガイドブック」等を出版しています。